グッドルーザー


東京の、人通りが少ない路地を歩いていたところ、中1くらいの気の弱そうな男の子が同じく中1くらいの活発そうな男の子にいじめられている(僕の目には「いじめ」に見えた。男の子がのしかかられて何発も何発も力を込めて殴られていた)のを見ました。黙って見ているのも良心、あるいはいじめられっ子へのシンパシーが許さなかったし、かといって通りすがりの浪人生が中学生のケンカ(?)に介入するのもどうかと思ったので、いじめられっ子が一人になった頃合いを見て「大丈夫?」と話しかけました。彼は申し訳なさそうに大丈夫ですと返し、僕が「頑張れよ」と言うと彼はとびきりの笑顔で「ありがとうございます!」と返したのです。

正直なところ、中学生の男の子にもなって殴る蹴るタイプのいじめを受けるような子はある種「生まれついてのいじめられっ子」のようなものを持ち合わせていると思います。僕もそうだったのでなおさら。彼の見事だったと思うところは、話し掛けてきた僕に「どうして黙って見てるだけで止めなかったんだ」と恨めしそうな顔をするわけでもなく、堂々と笑顔で「ありがとうございます」と述べた点だと思います。

人生のあらゆる局面で「勝ち負け」が決まることはたくさんあるし、それに勝ち続ける人もいれば負け続ける人もいる。それが子どものケンカのような小さなことであっても。彼は今回は負けたのだけども、その後の彼の態度には、勝ち負けを越えた、男としてのカッコよさを垣間見たような気がします。

僕は今回、いじめられっ子としてのシンパシーをもって彼に話し掛けたのだけど、逆に彼に「男の負け方」を教わりました。僕はおそらく負け続ける側の人種ですが、彼のように胸を張って、笑顔で「負ける」ことのできる男でありたいなあと思いました。